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宮崎地方裁判所 昭和59年(行ウ)4号 判決 1985年4月12日

宮崎県西臼杵郡高千穂町大字三田井一二六五の五番地

原告

伊藤イエノ

同県延岡市東本小路一一二の一番地

被告

延岡税務署長

河野正道

右指定代理人

篠崎和人

右同

公文勝武

右同

大串法光

右同

長谷川哲

右同

松下邦男

右同

谷山幸雄

右同

小佐井秀秋

右同

永田康昌

同県西臼杵郡高穂町大字三田井一三番地

被告

高千穂町長

甲斐畩常

右指定代理人

木田繁生

右同

佐藤成

右同

内倉信吾

主文

原告の訴をいずれも却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告延岡税務署長が原告の昭和五五年分の所得税、昭和五九年八月二〇日付の延滞金及び利子税についてした各賦課処分を取り消す。

2  被告高千穂町長が原告の昭和五六年分の町県民税及び国民健康保険税についてした各賦課処分を取り消す。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  被告らの請求の趣旨に対する答弁

(一)  本案前の答弁

主文同旨

(二)  本案の答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告延岡税務署長は、原告に対し、昭和五六年六月一五日付をもつて、昭和五五年度所得税金一三六万二〇〇〇円を、昭和五九年八月二〇日付をもつて右所得税の延滞金一八万五四〇〇円、利子税一万〇一〇〇円をそれぞれ納付すべき旨督促し、もつて、賦課決定をした。

2  被告高千穂町長は、原告に対し、昭和五六年度町県民税金四五万六五四〇円、国民健康保険税金二六万円の賦課決定をした。

3  原告は、新住居を建築するため、所有する他の宅地を売却し、その代金をもつて右建築費用にあてた。

そこで、原告は、昭和五六年三月、右売却による収入を含めて、被告延岡税務署長に対し、確定申告をした。

しかるに、右新住居建築のために要した費用は経費として控除されず、前記2、3のとおり、高額な課税をされた。

4  なお、原告は、所得税金一三六万二〇〇〇円のうち金七〇万円を昭和五六年三月一六日までに納付し、その残額金六六万二〇〇〇円について、同年五月三一日までの延納届出書を提出し、他から借金をして、昭和五八年五月一七日に漸く右残額を支払うことができたのであつて、このような高額の課税は、原告の生存権を圧迫するものであり、被告らの裁量権の濫用である。

よつて、原告は、被告らに対し、それぞれ請求の趣旨記載のとおり、各賦課処分の取消しを求める。

二  被告らの本案前の主張

(被告延岡税務署長)

1 原告は、昭和五五年分所得税の賦課処分の取消しを求めているが、原告の同年分の所得税の確定については、原告の確定申告によるもので、その間に行政処分なるものは存在しないから、同年分の所得税の賦課処分の取消しを求める訴えは取消しの対象たる処分を欠き、不適法たるを免れない。

2(一) 被告延岡税務署長は原告に対し、昭和五九年八月二〇日に利子税及び延滞税の納付催告をなしたものであるが、原告が取消しを求める利子税金一万一〇〇円及び延滞税金一八万五四〇〇円は、原告が昭和五五年度所得税のうち、金六六万二〇〇〇円について、昭和五六年六月一日までの延納の届出をしたこと及び右延納期間経過後五九年八月二〇日に至つて国税の残額金六六万二〇〇〇円を納付したことの各事実に基づき自動的に発生成立し確定したものである。

(二) 被告延岡税務署長が原告に対してなした本件納付催告は右のようにして既に確定した利子税、延滞税の納付を原告がしないため、その納付方を催告したに過ぎないものであつて、賦課処分ではなく、行政事件訴訟法三条にいう行政処分に当らない。

(被告高千穂町長)

1 原告は、昭和五五年分の所得税につき確定申告を行なつているものであるところ、被告高千穂町長は、原告の同被告に対する地方税の申告とみなされる右確定申告に基づき、昭和五六年度町県民税及び国民健康保険税を算出し、これの納付方を通知したものであるにすぎないから、いずれも税額の決定について取消しの対象たる行政処分を欠くものである。

2 地方税法一九条の一二によると、地方税に関する法律に基づく処分の取消しを求める訴えは異議申立に対する決定、審査請求についての裁決を経た後でなければ提起できない旨のいわゆる不服申立の前置を規定しているところであるが、原告の訴えは異議申立、審査請求の手続を経由することなく提起されたものであるから、原告の本件訴えは不適法として速やかにこれを却下されるべきである。

第三証拠

一  原告

甲第一号証及び第二号証の各一ないし三、第三号証ないし第五号証の各一、二

二  被告延岡税務署長

甲第二号証の一、二、第三号証の一、二、第五号証の二の成立は不知。その余の甲号各証の成立は認める。

三  被告高千穂町長

甲第二号証の二、三、第五号証の二の成立は不知。その余の甲号各証の成立は認める。

理由

一  被告延岡税務署長に対する訴について

1  原告が、昭和五五年度所得税について、被告延岡税務署長に対し、確定申告をしたことについては当事者間に争いはなく、弁論の全趣旨によれば、原告の昭和五五年度所得税の金額は、右確定申告に基づいて確定したことが認められる。

ところで、所得税額の確定については、申告納税制度がとられており納税者自らが自己の所得金額及び税額を算定して申告し、この申告による税額の計算が法令の規定に従つていない場合や税務署長の調査したところと異なる場合を除き、右申告によつて当然に税額が確定するのである。そして、右申告は、公法上の行為ではあるが、あくまで私人たる納税者自身の行為であり、ここに税務署長の行う処分は存在しない。したがつて、右所得税額の確定については、取消しの対象たる行政処分を欠くことが明らかである。

2  被告延岡税務署長の本案前の主張2の(一)の事実は当事者間で争いがなく、これによれば、右延滞税額及び利子税額の確定についても右1と同様に行政処分を欠くことが明らかである。

二  被告高千穂町長に対する訴について

1  原告が昭和五五年度の所得税について確定申告をしたことについては、原告と被告高千穂町長との間においても争いがないところ、県民税については地方税法四五条の三により、町民税については同法三一七条の三により、それぞれ右確定申告をもつて右各税の申告とみなされるのであり、弁論の全趣旨によれば、被告高千穂町長は、原告に対し、右申告内容によつて算出確定した昭和五六年度町県民税の納付方を通知したにすぎないことが認められる。

これによれば、右町県民税額の確定について、取り消しの対象たる行政処分を欠くことが明らかである。

2  被告高千穂町長との間において、成立に争いのない甲第三号証及び弁論の全趣旨によれば、被告高千穂町長は、前記確定申告による所得金額を算出基礎として、地方税法七〇三条の四の規定によつて原告の昭和五六年度国民健康保険税額を算出し、原告に対し、その納付方を通知したものであることが認められる。

これによれば、右税額の確定についても右1と同様に行政処分を欠くことが明らかである。

三  結論

以上によれば、原告の被告らに対する訴は、いずれも取消しの対象たる行政処分を欠くものとして不適法なものであるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川畑耕平 裁判官 若林辰繁 裁判官鳥羽耕一は転補のため、署名押印できない。裁判長裁判官 川畑耕平)

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